え~最初にお断りしておきますと。
今回紹介する漫画「花園メリーゴーランド」にはエロいシーンが結構あります。
でもエロ漫画じゃありません。
漫画のジャンルとしては「ミステリアス&サスペンス」。
そこに、女の子のせつない「ラブストーリー(片想いストーリー)」が重なる形になります。
なぜならこの作品は、「性」というものを通じて、道徳観や価値観・倫理観の違いというものに対する人間の心理を描いたヒューマンドラマだからです。
- 自分の気持ちを解ってくれる人が一人もいない状況
- かつ、周りの人の気持ちが全く理解できない状況
そんな状況に追い込まれた人間は、どうなると思います?
本作「花園メリーゴーランド」は、その答えの1つを示してくれています。
ただですね。
わたしもこんな偉そうなレビューが書けるのは、結構な年齢になってからこの作品を読んだからでして。
もし10代の頃に読んでいたら、そりゃ「エロ漫画」だと思って読むでしょうね~。
まぁしかし、どのように捉えていただいても本作が傑作であることに変わりはありません。
花園メリーゴーランドの作品データ
【作品概要】
東京近郊で暮らす15歳の少年・相浦(あいうら)くんが、ひょんなことから迷い込んだ山奥の村落・柤ヶ沢(けびがさわ)。
閉鎖的な社会であるがゆえの習俗に戸惑うばかりの相浦くんは、住民たちに翻弄され続け、遂にはそこで「童貞」を捨てることに…。
奔放な「性」と真剣な「恋愛」をミステリアス&サスペンスな雰囲気で描き切った、
ある意味「恐ろしい漫画」です。
【作品データ】
作品名 | 花園メリーゴーランド |
作者 | 柏木ハルコ |
連載誌 | ビッグコミックスピリッツ(小学館) |
連載期間 | 2001年(平成13年)~2002年(平成14年) |
単行本 | 全5巻 |
電子書籍 | あり |
花園メリーゴーランドのおすすめポイント①(エロス)
そう遠くない昔。
戦争が終わって高度経済成長期を迎えようとしていた1950年代くらいまでは、一部の地域で「夜這い」や「お茶呼ばれ」という男女の遊びが普通に行われていたそうです。
独り身の女性の元へ夜な夜な通う男たち。
独り身の男性の元へこっそり通う女たち。
山道を何キロも歩き、離れた場所に住む娘のところまで通う男たち。
夏祭り・盆踊りの季節になると飢えた獣のように性を貪りあう男女。
などなど。
そう遠くない昔の日本では、今のわたしたちの観念とは全く異なる「性の常識」が存在していた地域がありました。
本作「花園メリーゴーランド」も、そんな「奔放な性」がまかり通る山間の隠れ里「柤ヶ沢(けびがさわ)」が舞台となります。
(注)柤ヶ沢について
おそらく柤ヶ沢は「村」だと思われますが、作中では「柤ヶ沢村」という表現を使っていません。(単に「柤ヶ沢」とだけ表記)
しかし、登場人物たちが「この村~」や「村の人たち~」という表現を使っているため、本記事でも便宜上「柤ヶ沢 = 村」として扱います。
主人公の少年・相浦(あいうら)くんは、東京近郊に住むごく普通の中学生。
ある時、父親から聞いた相浦家に先祖代々伝わる刀「烏丸(からすまる)」を一目見てみたいと思い立ち、父親の故郷・谷竹村(やたけむら)へと向かいます。
(©柏木ハルコ/花園メリーゴーランド)
ところが。
その途中で柤ヶ沢という村へ迷い込んでしまい、これが彼の不幸(幸運?)の始まりとなるのでした。
柤ヶ沢という村は、非常に「性」というものに対してオープンな集落。
男も女も性行為を「悪いこと」あるいは「神聖なこと」などとは捉えていません。
人間が食事をしたり睡眠をとったりするのと同じような「ごく自然なこと」として捉えているのです。
そのため、ある一定の年齢(おそらく15歳前後)になった子供たちには、大人たちによる「性教育」が行われるシステム(しきたり)になっています。
つまり、男の子は村の女性たちから、女の子は村の男性たちから「実践」も兼ねた性教育を施されるのです。
男の子も女の子も、半ば強制的に「初体験」をさせられちゃうんですね。
で、本作の主人公の相浦くん。
彼は3つの偶然が重なって、運悪く(運良く?)この村のチン騒動に巻き込まれるハメになります。
- たまたま、その年齢に達していたこと
- たまたま、そのしきたりが行われる時期だったこと
- たまたま、童貞であったこと
(©柏木ハルコ/花園メリーゴーランド)
ま、この漫画が単なるエロ漫画であれば、この展開になんの問題もありません。
結果的に年上のおねえさん(おばさん?28歳)に優しく手ほどきされながら童貞を捨てられるんですから。
理想的な大人への階段を上れたことになるので、幸せ者だと言えます。
でも…。
単なるエロ漫画ではない本作の面白さは、他のところにもあるのです。
花園メリーゴーランドのおすすめポイント②(ミステリアス&サスペンス)
閉鎖された山村。
古くから伝わる習俗。
およそ一般社会からは考えられないような「常識」がまかり通るここ柤ヶ沢で、訳が分からないまま流されていく主人公の相浦くん。
この村の人たちの性に対する意識は、本当に我々の常識からかけ離れたもの。
わたしたちの側の人間である相浦くんは、この村のしきたりや風習、何より村人たちの言動を理解することができません。
下ネタや卑猥な言葉は日常用語。
夜這いも当たり前(女性からもアリ)。
さらに人前でヤルことにもさほど抵抗はないようです。
特に本作に登場する女性たちの奔放さは、「痴女」というレベルを超えると言ってイイでしょう。
(©柏木ハルコ/花園メリーゴーランド)
一方、主人公の相浦少年は、どちらかというと大人しくて奥手の性格をしています。
※ 村のおばさんたちからカワイイと言われるような男の子。
そんな性に対して純真な男の子が、こんな痴女だらけの村に放り込まれたらどうなります?
「怖い」ですよね。
周りの人たちが、みな「理解不能」な人間ばかりなんですよ。
もうエロいとか気持ちイイとかそんな事じゃなくて。
ただただ「怖い」のです。
- もしあなたが童貞のまま痴女だらけの村に放り込まれたら?
- 泊めてくれた宿の女将さんに夜這いをかけられたら?
- 村のおばちゃんたちに囲まれていきなりパンツを脱がされたら?
- 知らない村の知らないおばさんとSEXすることになったら?
どうしますか?
道徳観や価値観・倫理観の違いというものに主眼を置いているこの作品は、
わたしたちには理解しがたい村人たちの言動を「謎」としてミステリアスに描き出しています。
そのため「この後どうなるんだろう?」というドキドキ感が、ページをめくる手を止めさせてくれません。
さらに後半になると、相浦くんはある理由から村人たちに追われて、逃げざるを得ない状況になります。
(©柏木ハルコ/花園メリーゴーランド)
周りに味方がひとりもいない状況に追い込まれた主人公。
主人公をしつように追い回す村人たち。
その心理をサスペンスタッチで描写している点は、ハラハラ感をあおってくれます。
こちらもハラハラしながら、ページをめくってしまうでしょう。
まさにミステリアス&サスペンス。
そんなミステリアス&サスペンスなストーリーの展開も、本作の大きな見どころなのです。
花園メリーゴーランドのおすすめポイント③(ラブストーリー)
さて、本作のおすすめポイントの最後はヒロインの澄子(すみこ)ちゃん。
澄子ちゃんは相浦くんが最初に知り合う柤ヶ沢の住人。
※ 相浦くんと同じ中学生ですが年齢は不明。
可愛らしい容姿をしているものの、ちょっと不愛想な女の子です。
ただ、相浦くんと同年代なので「性」に対する認識としては相浦くんに最も近い人物。
柤ヶ沢(けびがさわ)で行われるしきたり(性教育)にも疑問を持っている節がうかがえます。
そんなこともあってか、しだいに相浦くんに惹かれていきますが…。
そこはやっぱり柤ヶ沢の住民。
心の中では「初体験は好きな人(相浦くん)と…」という純粋な想いがあるにもかかわらず、
けっきょく村のしきたりに従って「性教育」で初体験を済ますことになります。
ちなみに相浦くんのほうは、さほど澄子ちゃんに気があるというわけではありません。
気になる女の子ではあるものの「好き」という感情までは至ってないようですね。
だから本作で描かれるのは2人のラブストーリーではなく、澄子ちゃんの片想いストーリーになっています。
で、その片想いストーリーにおいて、この澄子ちゃんの初体験は大きなターニングポイント。
相浦くんに対する「好き」という心の本音。
対して「好きでもない男性と初体験を済ませてしまった」という罪悪感。
さらに間の悪いことに、初体験の場面を相浦くんに目撃されてしまうという何とも漫画チックな展開。
これらの感情が入り混じって、相浦くんに素直に接することができなくなってしまうのです。
「好き」という気持ちが裏返って、嫉妬とかねたみとかの感情として表に出てしまう。
好きな人の気を引くためにあえてイジワルをしてしまう。
そういう気持ち、解りますよね。
(©柏木ハルコ/花園メリーゴーランド)
このあたりは、自分の気持ちと村のしきたりの狭間で揺れる澄子ちゃんの心境が、女性の漫画家さんならではの描写で上手く表現されています。
相浦くんの気を引こうとする子供らしい愛情表現も可愛くて◎。
一方で、相浦くんの男としての身勝手さというか弱さのようなものもキッチリ描き出しているのも、
男として共感できるモノがあるでしょう。
(©柏木ハルコ/花園メリーゴーランド)
そんな澄子ちゃんの片想いストーリーがどのような結末を迎えるのか?
は、ラストまで待たなければなりません。
ということで今回は、「花園メリーゴーランド」のおすすめポイントを紹介しました。
本作は、エロス + ミステリアス&サスペンス + ラブストーリーで構成された作品です。
「性」についてあけすけに描いた作品でありながら、あえてエロメインではなく「題材」として使用。
単なるエロ漫画でもなく、単なるサスペンス漫画でもなく、単なる恋愛漫画でもない異色の漫画として仕上げられた名作となっています。
全5巻と手ごろな長さですので、主人公の相浦くんに感情移入しながら異色の名作漫画を堪能してください。
最後に、冒頭で述べたことをもう一度。
- 自分の気持ちを解ってくれる人が一人もいない状況。
- かつ、周りの人の気持ちが全く理解できない状況。
こうした状況に追い込まれた人間がとる行動は、次のいずれかです。
- 考えるのを止めて、周りの状況を受け入れる。
- 自分の気持ちをしっかり持って、流されない。
果たして相浦少年は、
最終的にどちらの行動をとったのでしょうね?
(©柏木ハルコ/花園メリーゴーランド)
さて、そんな本作「花園メリーゴーランド」は電子書籍化されています。
わたしがふだん利用している電子書籍通販サイト「ebookjapan(イーブックジャパン)」で試し読みが可能。
「花園メリーゴーランド」に興味を持たれた方は、下の公式サイトでチェックしてください。
ebookjapanについてはこちらの記事でも詳しく解説しています。
よろしければ、あわせて参考にしてください。
