今から45年以上前に連載が始まった昭和の傑作料理漫画「包丁人味平」を紹介します。
年代的にリアルタイムでは読んでいませんが、わたしには兄貴がいましてね。
歳が6つ離れているんです。
で、この兄貴が結構なマンガ好き野郎でして、本作「包丁人味平」も全巻揃えていたんですね~。
ということで。
今回の記事では、たぶん知らない人のほうが多いであろう「包丁人味平」のおすすめポイントを紹介していきます。
1970年代の古い漫画。
でもメチャメチャ面白い!ですよ。
包丁人味平の作品データ
【作品概要】
名料理人を父に持つ主人公・塩見味平(しおみ あじへい)が、料理人として成長してゆく姿を描く「料理漫画」。
Wikipediaによると「史上初の料理・グルメ漫画」だそうで。
それだけでも「名作」と呼ぶにふさわしいのですが…。
本作のおもしろさは、別のところにあるんです。
【作品データ】
作品名 | 包丁人味平(ほうちょうにんあじへい) |
作者 | 作:牛次郎、画:ビッグ錠 |
連載誌 | 週刊少年ジャンプ(集英社) |
連載期間 | 1973年(昭和48年)~1977年(昭和52年) |
単行本 | コミックス版:全23巻、ワイド版:全12巻 |
電子書籍 | あり |
包丁人味平のおすすめポイント①(実は、○○○漫画です)
天下の週刊少年ジャンプで人気を博した名作「包丁人味平」。
タイトルの「包丁人」という響きから、おのれの腕と包丁1本で料理界を渡り歩く「さすらいの料理人」が活躍する漫画というイメージを持つかもしれません。
それも間違いではないのですが、ちょっと違います。
本作は、主人公である料理人・塩見味平が「誰もが食べられる安くてうまい料理」を作ることを目的に、さまざまな体験を通して成長していく漫画です。
確かにたくさんの料理や食材などが登場します。
でも基本的には、主人公・味平が周りの人たちに支えられながら料理人として成長していく姿を描く「ヒューマンドラマ」が軸になっています。
このように書くと、「えっ?それって面白いの?」と思われそうですが…。
大丈夫です。
ジャンプで連載され、コミックス23巻まで続いた名作ですよ。
それだけじゃ終わりません。
それではストーリーや主人公の紹介も交えながら、本作のおすすめポイントを紹介していきます。
包丁人味平の主人公&ストーリー
主人公・塩見味平(しおみ あじへい)は、一流料亭の板前である塩見松造を父に持ち、小さい頃から父親の背中を見て育ってきました。
ところが「一流料亭」の板前であった父親を見てきたことが、逆に「大衆料理」への興味を味平に抱かせることになります。
そして中学を卒業した味平は、洋食屋「キッチン・ブルドッグ」で見習いとして働き始めるのでした…。
余談ですが、1970年代の漫画なので当初はかなり「劇画タッチ」のキャラ絵になっています。
(©牛次郎、ビッグ錠/包丁人味平)
しかし後半になればなるほど「漫画タッチ」のキャラ絵に変わっていきますよ。(時代を感じますね~)
(©牛次郎、ビッグ錠/包丁人味平)
さて、キッチン・ブルドッグで見習いコックとして修業を始めた味平くん。
いくら父親が一流の板前でも、味平自身は中学を卒業したばかりの普通の少年です。
まずはキッチン・ブルドッグの厳しくも優しいチーフ・北村やベテランコックの留さんなどに、料理人としてのイロハを叩きこまれていきます。
そんな折。
厨房を預かるチーフの北村が、私用で3日間店を空けることになりました。
その代理として「仲代」という料理人がチーフとして店を仕切ることになります。
3日間限定ではあるものの厨房を仕切るチーフとして派遣されてきた仲代は、北村チーフのやり方を全否定。
さらにはキッチン・ブルドッグの命とも言える「ソース」を捨ててしまいます。
北村チーフが大事に育ててきたソースを捨ててしまった仲代に激怒した味平は、見習いの分際で仲代に食って掛かるのでした…。
ここまでが本作のプロローグと言ってイイでしょう。
この後から、包丁人味平の本領が発揮されます。
包丁人味平は単なる料理漫画ではありません
北村チーフとキッチン・ブルドッグの大切なソースを捨ててしまった仲代に対して、何も言うことができない他のコックたち。
そんな先輩たちを尻目に、仲代に食って掛かる見習いコックの味平。
生意気な口を利く味平に対して仲代は、「包丁試し」という3本勝負を仕掛けるのです。
(©牛次郎、ビッグ錠/包丁人味平)
包丁試しとは、古くからある料理人同士の勝負の方法。
この勝負を持ちかけられた場合には断ることはできず、もし断るのであれば料理人を辞めなければならない決まりになっています。
具体的には、10分間で氷の彫刻を造る「氷祭り」、アイスクリームのフライを作る「火祭り」、そして水面に浮かんだキュウリを包丁で切る「刃物祭り」の3つで勝負を決します。
そして。
この「包丁試し3本勝負」のあと、次のようにストーリーが進んで行きます。
- 東京・不忍池包丁塚前での「包丁試し勝負」
- 塩見味平 VS 仲代圭介
- 愛知・熱田神宮境内での「点心礼勝負」
- 塩見味平 VS 団 英彦
- 静岡・焼津の荒磯の板場での「荒磯勝負」
- 塩見味平 VS 鹿沢練二
- 東京・ひばりヶ丘での「カレー戦争」
- 塩見味平 VS 鼻田香作
- 札幌・雪まつり会場での「全日本ラーメン祭り」
- 塩見味平 VS 柳 大吉、石田鉄竜など
もうお分かりですよね。
そうなんです。
この漫画は単なる料理漫画ではなく「料理バトル漫画」なんです。
古くは「美味しんぼ」や「ミスター味っ子」、最近では「食戟のソーマ」などですっかり漫画のジャンルとして定着している料理バトル。
その元祖は、この「包丁人味平」なのですね。
包丁試し勝負が終わった後、味平はキッチン・ブルドッグを離れいわば「流れの料理人」として活動することに。
ですから、前のほうで述べた「さすらいの料理人漫画」という表現も当たってはいます。
しかし料理そのものが中心となるのではなく、勝負(バトル)がメインとなっている点が、世の少年たちに受けた要因なのでしょう。
いつの時代も週刊少年ジャンプは子供たちの心をつかむ術を心得ていますね~。
また、料理の味などについての表現や批評は最小限に止められています。
勝負(バトル)にしても「料理の味を競う」というより「料理人としての技能を競う」ことが多く、勝敗が分かりやすかったのも少年誌で受け入れられた理由と言えます。
- 次々と現れる料理人たち(敵・ライバル)
- 勝負に勝つための特訓・ヒント探し(成長)
- 周りの人たちの協力(仲間)
これら人気バトル漫画に欠かせない要素もしっかりと配合。
料理を題材にした作品でありながら王道バトル漫画としても楽しめてしまうのが、本作「包丁人味平」のおもしろさなんです。
包丁人味平のおすすめポイント②(ストーリー)
それでは続いて、包丁人味平の料理バトルの内容をストーリーに沿って紹介していきます。
さっきも書いたとおり、本作の料理バトルは「料理の味を競うもの」と「料理人としての技を競うもの」があります。
これは原作者である牛次郎先生の手腕が大きくて、どちらもとても楽しめる内容になっていますよ。
包丁試し勝負(塩見味平 VS 仲代圭介)
味平が行う最初の料理バトルが、この「包丁試し3本勝負」です。
前の章で少し触れたように、この勝負は3本勝負。
- 10分間で氷の彫刻を造る「氷祭り」
- アイスクリームのフライを作る「火祭り」
- 水面に浮かんだキュウリを包丁で切る「刃物祭り」
まぁ氷の彫刻を造るのが料理の腕に関係するのかどうか知りませんけど…、料理人の腕を競うバトルですね。
最初の対決「氷祭り」では、ノミを使って氷を削り「氷の白鳥」を造ります。
どちらがより美しい白鳥を造れたか?の勝負。
次の「火祭り」は、元々アイスクリームのフライを作るはずだったのが変更されて、「アイスクリームの壺あげ」という料理を作るバトルです。
このアイスクリームの壺あげは「何個作れたか?」で個数を競います。
(©牛次郎、ビッグ錠/包丁人味平)
最後の「刃物祭り」は、水を張ったボウルにキュウリを浮かべ、いかに水面を揺らさずにキュウリを切るかという包丁技での勝負となります。
料理人としては素人同然の味平とベテラン料理人・仲代との闘いは、「団 英彦」という料理人の登場により第4戦・潮(うしお)勝負にまでもつれ込むことに。
(©牛次郎、ビッグ錠/包丁人味平)
潮勝負は「味の勝負」。
純粋に料理人としての実力がモノを言います。
さて、勝負の結末やいかに…。
点心礼勝負(塩見味平 VS 団 英彦)
味平の最初のバトル・包丁試し勝負に登場した「団 英彦」と闘うのが、次の「点心礼勝負」。
団英彦は、超一流ホテルの調理部長を務める超一流のシェフ。
「点心礼」などと意味が分からない名前が付いていますが、勝負の内容は「肉の宝わけ対決」です。
いかに早く、そしてきれいに肉をさばけるか(区分けできるか)で争われます。
(©牛次郎、ビッグ錠/包丁人味平)
この肉の宝わけ勝負のために味平が特訓する場面や、特訓のすえ身に付けた「白糸バラシ」、「二刀仕上げ」といった必殺技も必見。
ただし肉の宝わけ勝負では決着がつかずに、区分けした肉を使った料理対決にまで発展します。
果たして超一流ホテルの超一流シェフに、味平は勝つことができるのか!?
荒磯勝負(塩見味平 VS 鹿沢練二)
団英彦との点心礼勝負が終わった後、無法板の練二(鹿沢練二)と静岡県・焼津市にて荒磯勝負に臨む味平くん。
荒磯勝負とは、「荒磯の板場」と呼ばれる潮が渦巻く海上を舞台に、小さな屋形船の上で「大海荒造り」と呼ばれるマグロの刺身料理を作る勝負です。
このバトルにあたっては、味平が克服しなければならないことが2つあります。
1つは、激流渦巻く海上、しかも船の上で料理を作らねばならないという過酷な条件を克服すること。
もう1つは、味平自身の「魚アレルギー」を克服しなければならないこと。
料理人なのに「魚アレルギー」って致命的ですけどね…。
このエピソードの前半部分は、これらを克服する味平の姿が描かれ、後半部分で料理バトルが描かれています。
しかし、てっきり「マグロの刺身料理を作る勝負」だと思い込んでいた味平に、大きな落とし穴が待っていました。
勝負の方法が、刺身料理ではなく「荒磯焼き」という焼き魚料理に変更されてしまうのです。
刺身料理だと思い準備していた味平が、焼き魚料理に対してとった奇策とは…。
そして、意外な結末が待っているのでした…。
カレー戦争(塩見味平 VS 鼻田香作)
静岡での荒磯勝負を終えた味平は、横浜の港で働く日雇労働者の中にいました。
ここから東京へと舞台を移し、長い長~い「カレー」のエピソードが描かれることになります。
当エピソードの料理対決は、「塩見味平 VS カレーの天才・鼻田香作」というカレー対決の図式。
ただ、ストーリーとしては「デパート(会社)VS デパート(会社)」という大きな図式で描かれています。
※ カレー「戦争」と銘打っているのはそのため。
簡単に言うと、味平と鼻田がそれぞれのデパート(会社)に雇われ、どちらが美味しいカレーを作ってお客さんを多く呼べるか?という対決になります。
そこに経営者と料理人、暴走族、日雇労働者、ラーメン職人、他のカレー店などがそれぞれの思惑で登場。
なかなか複雑な内容となっています。
でもそんな中、料理人である味平は「誰が食べても美味しいカレーライス」を作ることを目的に邁進。
味平の最終目標である「誰もが食べられる安くてうまい料理」を作るための1つの試練として、この「カレー戦争」は描かれているのです。
このエピソードには「どんぶりカレー」、「お雑煮カレー」、「ミルクカレー」、「ブラックカレー」、さらに「味平カレー」など様々なカレーが登場。
それらも見どころの1つと言えるでしょうね。
最終的に味平がたどりついた「究極の味平カレー」とは?
そして、カレー戦争に終止符を打つ「ブラックカレー」の秘密とは?
長いエピソードですが、最後まで目が離せません。
(©牛次郎、ビッグ錠/包丁人味平)
全日本ラーメン祭り(塩見味平 VS 柳 大吉、石田鉄竜など)
最後は、舞台を札幌に移しての「ラーメン対決」。
日本人の大好きなカレーとラーメンを最後に持ってくるなんて流石です、牛次郎先生。
このラーメン対決は、最後のバトルにふさわしくとても読みごたえがあって面白いエピソードに仕上がっています。
札幌の雪まつりにあわせて開催される「全日本ラーメン祭り」。
参加者40名を超えるラーメン日本一を決めるバトルに味平が参戦します。
- 第一次予選:スープ対決(上位20名が通過)
- 第二次予選:麺対決(上位10名が通過)
- 特別戦:1対1の麺対決(勝った方が決勝進出)
- 決勝戦:ラーメン対決(優勝者が日本一)
上記のような対決を行い、真のラーメン日本一が決定。
全国から集まったラーメン界の猛者たちを相手に、味平は日本一になれるのか?
個人的にこのラーメン祭りはスゴク記憶に残ってて、二次予選の麺対決で味平が作った「味平麺」には子供ながらに衝撃を受けました。
味平がどんな麺を作ったのか?は…読んでからのお楽しみ♪
料理バトルの醍醐味
このように、本作ではさまざまな料理対決が行われますが、全ての料理バトルに共通していることが2つあります。
1つは、対決する料理や技に対してきちんと解説がついていること。(大袈裟な表現や批評ではなく「説明」です)
TV中継され解説者が説明することもありますし、審査員や観客が説明することも。
これが料理や食材などに詳しくない少年読者でも、すんなり料理バトルの世界に入っていける要因となっています。
この形式は、後の料理バトル漫画の全てに受け継がれていますね。
そしてもう1つは、対決のたびに料理人としての味平が成長すること。
週刊少年ジャンプの代名詞である「王道バトル漫画」は、ライバルたちとのバトルを通じて主人公がより強く・大きく成長していく姿が描かれます。
本作も、駆け出し料理人である味平が多くのライバルとの料理対決を経て、料理人として成長していく姿が、王道バトル漫画さながらに描かれています。
さらにライバルに勝つために努力し、工夫し、周りの人たちに助けられながら成長する姿。
これは「努力・友情・勝利」をコンセプトとする週刊少年ジャンプにピッタリ。
最後は、「誰もが食べられる安くてうまい料理」を作ることを究極の目標とする味平が、「外国人が食べてもうまい料理」を作るため、豪華客船のコックとして更なる修行の旅に出るところで終了。
味平の旅(闘い)はこれからも続いていく…、という終わり方ですね~。
(©牛次郎、ビッグ錠/包丁人味平)
漫画に限らずどんなジャンルであれ、その分野で「史上初」となることを成し遂げた人は歴史に名を残します。
この「包丁人味平」という漫画は、作品自体の面白さもさることながら、漫画史上初めての「料理バトル」を描いたところが偉大。
後の作品に大きな影響を与えたという意味でも「名作」として語り継がれる資格のある漫画です。
そんな昭和を代表する傑作漫画を、味平の作る料理とともに楽しんでいただけたら幸いです。
さて、そんな「包丁人味平」は電子書籍化されています。
わたしがふだん利用している電子書籍通販サイト「ebookjapan(イーブックジャパン)」で試し読みが可能。
本作に興味を持たれた方は、下の公式サイトを覗いてみてください。
また、ebookjapan(イーブックジャパン)についてはこちらの記事でも詳しく解説しています。
よろしければ、あわせて参考にしてくださいね。
